大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)2064号 判決

被告人 籾山五郎 外

〔抄 録〕

しかし被告人籾山五郎、同松田春男、同籾山善秋に対する原審の量刑は、同被告人等に対しても刑の執行猶予を言い渡した点において軽きに失するものと認められるから、この点に関する論旨は理由がある。即ち本件記録並びに当審における事実の取調の結果に徴すれば、被告人籾山善秋、同松田春男、同籾山五郎は兄弟であつて、被告人籾山善秋は東京都墨田区寺島町において籾山ゴム工業所の名称の下にゴム加工業を営んでいたものであるが、被告人籾山五郎、松田春男は右籾山善秋と共謀の上、これを利用し仮空の事業所を設けこれを失業保険法の適用を受ける事業所として届出をした上、同事業所の従業員が離職したように装い同事業所名義の虚偽の離職票を作成し、右被告人等自ら、又は第三者名義を以て受給資格者として失業の認定を受け以て失業保険金名下に金員を騙取しようとの意図の下に本件犯行を敢行したものであつて、被告人等は事業所の名義を三協製作所、大同製作所、旭光工業所と順次変更し、その事業所名義の離職票に、或は被告人等自身或は擅に第三者の名義を冒用して失業の認定を受け保険金の不正受給を受けたものであり、金員を騙取した期間はいずれも昭和二十六年十月頃より昭和二十八年九月頃迄(被告人籾山五郎は十月二十五日まで)の長期に亘りその騙取金額も共謀の分を含めて被告人籾山五郎は百六万二千六百三十円(籾山五郎自身が取得した額は四十四万三百四十円)被告人松田春男は七十六万九千二百円(松田春男自身が所得した金額は四十七万九千七百四十円)被告人籾山善秋は六十七万七十円(籾山善秋自身が取得した金額は二十二万三千六百五十円)に達し、その他被告人等の共謀に基く前記仮空事務所名義の虚偽の離職票に基き失業保険金名下に騙取せられた本件被害金の総額は実に百五十四万千四百余円の多額に達しているのである。かくの如く、本件は、失業保険金の不正受給として通常見られるような、離職者が他に就職したに拘らずこれを申告しないで失業者として受給する場合、失業者が失業中内職等により収入を得たのに、これを申告しないで保険料全額の支給を受ける場合、真正の離職票に記入された従前の収入額を改竄して不正に多額の支給を受ける場合等とその質を異にするものであつて、その被害総額も東京都における昭和二十七、八年度失業保険不正受給総額の約十分の一に当るものである。(当審における証人金田展光の供述参照)しかして右被告人三名は本件事案の中心的人物と認められるのであり、かつ爾後における被害の弁償も殆んどなされていない(被告人籾山善秋については全然弁償がない。)以上の事実に徴するときは本件事案につき失業保険法の法規並びに運用に遺憾の点があつたと認められること、各答弁書に記載された被告人等につき斟酌すべき各種の事情を綜合考察するもなお、敍上被告人等に対し刑の執行猶予の言渡をした原判決はその量刑が軽きに過ぎるものと認めざるを得ない。よつてこの点に関する検察官の控訴趣意は理由があり原判決中上記三被告人に関する部分は破棄を免れない。よつて刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書により原判決中同被告人等に関する部分を破棄し、当裁判所において更に判決をすることとする。

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